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笹幸恵
2025.3.17 19:32皇統問題

正統(しょうとう)こそが万世一系の証???

倉山満の新著『皇室の掟』では、
万世一系の系図の上に「正統(しょうとう)」の
ラインが引かれている。
中世では、
正式に天皇になった方を「正統(せいとう)」といい、
男系男子孫が皇位を継承していった天皇・皇族を
「正統(しょうとう」というのだそうな。

神武天皇の伝説以来、皇位の男系継承を続けていったと
倉山は言っているから、
この「正統(しょうとう)」こそ、万世一系の証と
言いたいのだろう。
実際、今上天皇から神武天皇まで、
「正統(しょうとう)」のラインがきれいに
1本の線でつながっている。

が、かなり無理がある。
まずは欠史八代。

本当に実在したかどうかもあやしいので、
この時点ですでに「男系継承」などと言い切れない。
フツーに考えたらわかる。

次、26代継体天皇。

10人の天皇を差し置いて、
傍系4代を「正統(しょうとう)」。
こちらは仁賢天皇の娘である手白香皇女と結婚して、
ようやく体裁を保ったのだが、
倉山は「男系を女系で補完した」などと、
あくまで男系メインの思考回路。なんでだ。

「皇位」の女系継承である
元明・元正天皇はどうかと思えば、びっくり。

元明天皇どころか、天武・持統天皇すらすっ飛ばして、
天智天皇(38代)→施基親王→光仁天皇(49代)。
えええ〜。
「元明→元正」の流れを男系継承だと強弁するのは
元正天皇のお父さんが草壁皇子だからなのだと
思っていたけど、いや、ナナメ上からのウルトラC。

皇室に詳しくない人でも、
「え、それってアリ!?」と首を傾げるレベルだ。
もはや、天皇が誰で、どのような事績があったのかなど、
倉山にとってはどうでもいいらしい。
念頭にあるのは「男の血」。ひたすら「男の血」。
それも、「一般人の男を皇族にしないのが皇室の掟」
という持論をごり押しするためだけに。

何が何でも男系継承なのだという結論ありきで、
後付けで線を引いたらこうなりました、
という話でしかない。
それぞれの時代に、それぞれの事情があって、
何とか苦肉の策で(あるいは時に争いつつ)、
男も女も力を合わせて皇位を継承してきた、
と見るほうが自然だと思うけど。

男の血をそこまで絶対視するのは、Y染色体信奉者か、
「男はタネで女はハタケ」の男尊女卑のどちらかしかない。

もっとも、女の私からいわせれば、
歴史上の人物の系譜がキレイに連なっているからと言って、
純粋にその父親と子供の血がつながっていると
信じ込めるお花畑が初々しすぎて痛々しい。
(もちろん物語としてはあっていいと思うけど、
それを掟と言い出すに至っては・・・ダイジョウブ・笑?)

人間を知らないとこうなる、の見本かと。

笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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